Maigret et le client du samedi (Le Livre de Poche)を読み終える。なんだか、悲しいお話だ。Léonard Planchon という男が出てくる。体は小さくて、とがった口(bec-de-lèvre)をしている。気が弱そうで、妻を寝取られて、酒ばかり飲んでいる男だ。

読んでいてPlanchon を自分自身に投影して同情すると同時に、情けなくなった。弱くて、人からバカにされ、それでも対抗できない。まるで『阿Q正伝』の主人公みたいだ。そして、私自身みたいだ。真面目に仕事をするのだが、なかなか報われない。

フランスのアマゾンの書評を読むと、un fin chef d’oeuvre de psychologie humaine…「人間の心理を見事に描写している」と評価している。探偵小説というよりも、虐げられた人間へのMaigretの愛情を感じる小説だ。アマゾンのフランス語での書評は以下のブログにある。

さて、この話はそんなに大展開はない。犯人は妻と愛人と見当をつけた Maigret が何回も強引な方法とも思われるが、次第に犯人を追い詰めてゆく話である。映画化するには派手さがないので無理だろう。YouTubeで調べたが、このMaigret et le client du samedi が動画として投稿はされていない。

Maigret シリーズは劇的な展開はない。殺人があったとしてもせいぜい一人か二人だ。地味な方だろう。でも、それゆえに、人々の共感を読む。何回も繰り返して読めるのだ。この場合は、Planchonの経験を追体験することで、読者は何度も共感ができる。

Planchon がふと知り合った Sylvia という女との関係だが、何かほのぼのとした感じもする。この辺り、もう少し細く語ってくれると面白かった思う。