2023-12-15  Arsène Lupin Gentleman cambrioleur を読了した。どうも10年以上も昔に半分ほど読んだことがあるようだ。少し記憶が蘇って来た。その時は、紙の本であったが、今回はKindleを用いての読了であった。全部で9つほどの短編が並んでいるのだが、互いに緩く繋がっている。それなので、1つ1つを独自の短編として読んでいくのも可能と思える。

内容は、トリックの面白さ、奇抜さが一番のアピールであろうか。一人一人の心理的な深い追求はない。例えば、Ross Macdonals の作品に見られるように、人の過去とか親子関係の深い追及などはない。淡々とストーリーが流れると言えるだろう。Lupinがユーモアあふれる登場人物として描かれていて、泥棒だけども、読者は嫌悪感を抱くことはなくて、むしろLupinの味方をしてしまうだろう。この点はこの短編集の魅力である。

フランスの探偵小説ならば、Maigretシリーズも私のお気に入りだが、これはトリックの奇抜さもないし、人間心理の深い描写もない。ユーモアもない。でも、とにかく楽に読める。Simenonによる、時々出てくる季節とか食べ物の描写が好きだ。この探偵小説を読みながら、パリの街を散策しているような喜びを感じている。

一般的に、フランス語の文章はなかなか慣れない。特に、代名詞を動詞の前に持ってくるのは、英語に慣れている私としては変だという気がしてしまう。短編集の最後の部分だが、le monde est trop petit pur qu’ils ne se rencontrent pas… ホームズとルパンがいつかまた出会うだろうことを象徴する文だが、se rencontrent のように再帰代名詞が動詞の前に来るのは違和感を感じていた。

しかし、英語の情報構造を学んでからは、情報量の少ない代名詞などは動詞の前に来るべきだという風に感じるようになった。il y a では、aはavoir という動詞だが、yのように名詞や代名詞の代用として用いられる副詞は、動詞の前に位置することが自然であると感じるようになって来た。

英語とフランス語の情報構造の比較をしてみれば、少なくとも代名詞の位置に関しては、英語以上に、情報量の少ないものは前にくる、という法則がフランス語では貫徹されているように思う。そんな視点で今度から読んでみたい。