2014-11-22

Lecoq を相変わらず読んでいる。気づいた点を何点か記す。violin という語が出てくるので、au sol de violon (no. 1385)、ヴィオリン(フランス語ならばヴィヨロンの発音)かと思っていたが、念のために辞書を引くと、留置場という意味である。それは留置場の格子がバイオリンの弦に似ていることからだそうだ(プチ・ロワイヤル仏和)。鉄格子の形とヴィオリンの弦の相似から由来する。

Lecoq はようやく二人の婦人を運んだと思われる御者(cohcer)を見つける。そして自分を紹介するときに、je suis agent du service de la sûreté, (no.1405)と言う。英語ならば、I am an agent who works for the police…となるのか。職業を示す語に冠詞が付かないのはフランス語の特徴だ。

フランス語では、Je suis étudiant.(私は学生です)、Je suis docteur.(私は医者です)、Je suis japonais.(私は日本人です)と無冠詞になる。そして、その理由として、学生や医者としての機能を示す、具体的な学生や医者ではなくて、抽象的な学生や医者を示していると説明がある。この場合は、フランス語では、名詞だが名詞的ではなくて形容詞として使われているとも説明されるだろう。英語では、 I am a student ( a doctor, a Japanese). となる。

英語でも、As a teacher, I cannot connive your behavior. という文は As teacher….となることも可能だが、無冠詞では「教員としての職能」に重点を置いていることになる。「彼は議長に選ばれた」の英訳は、He was elected chairperson of the committee.となって、chairperson には the が付かないことはよく試験に出る問題である。議長などはその人よりも職種に重点が置かれる職業である。

とにかく、このあたり英語とフランス語の違いが現れて面白い。対比した場合だが、英語では、具体的な事象で表現されるのが好まれて不定冠詞がつく。 しかし、フランス語では、職業や機能という抽象的な部分に焦点が合わされる。

さて、Lecoq は二人の婦人が入ったと思われる家に向かってconcierge に婦人のことを聞くが、どうも婦人達は呼び鈴だけならして、そのあとは本来の目的地に向かったようだ。婦人達は居場所を悟られぬように注意を払ったのだ。

この物語は非常にゆっくりと進む。まだ逮捕された男の正体も、二人の婦人の正体も分からない。Lecoq は一生懸命動き回っているがまだ分からない。自分自身は、このスピードがだんだん気に入ってきた。探偵小説とは本来はこのように、ゆっくりとストーリーは回転していってほしい。