2014-09-29
Monsieur Lecoq を読んでいる。著者 Gaboriau は登場人物をいろいろな表現で言い表すことに気づいた。今は若い Lecoq とその部下の年配の男とのやり取りの箇所で、固有名詞で呼んでみたり、あだ名で呼んだりと変化をつけている。普通の探偵小説は Lecoq でずーっと通すのだが、ここでは、garçon, le jeune policierなどと言い方を変えている。年配の部下の方はさらに多様な言い方がされている。papa, le vétéran, le bonhomme, le pere Absinthe, l’anciene, le vieil agent, son vieux collègue, mon ancien など実に多様な表現がしてある。
これは読者に取ってはありがたい。メグレシリーズでは、すぐにたくさんの登場人物とその固有名詞のオンパレードで相互関係が分からなくなる。ノートにその関係を書き留めておかないとどんな人物だったのか分からなくなる。しかし、Monsieur Lecoq では、当時人物の数が限定されていて(現在のところまでは)、固有名詞ではなくて、普通名詞で人物を指していこうとするので、その人物の特徴が次第に読者の頭に刻み込まれていく。このようなゆったりとしたスピードは私は大好きだ。メグレシリーズは展開が早すぎる。
若い探偵が déduction (no.549) で足跡から色々な推理をして、部下のAbisinthe を驚かせる。この déduction で推理する方法は、ホームズシリーズに受け継がれている。ドイルは先輩の医者でdéduction の得意な人からアイデアを得たとあるが、少なくとも『緋色の研究』の冒頭で、ホームズが演繹法をもちいて色々なことを当てていくのは、Monsieur Lecoq のこの部分からヒントを得ているのは間違いないだろう。