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The Ivory Grin (Ross Macdonald, 1952, Vintage Crime)を読み終える。あまり高い評価は与えられない。65点ぐらいの出来栄えだろう。このところ、立て続けにRoss Macdonald の探偵小説を読んでいるので、ちょっと飽きたということもある。10冊ぐらい読むと、作者のくせが分かってきて、それが板につくようになったということも低評価の理由だ。

しかし、大きな理由は、やはり構成がきちんとしていない。動機も曖昧だ。いつもは神秘的で不可思議な人物がいて、その人間を追求しながら、全体の構造が見えてくるという構成だが、この本では、その神秘的な存在者が見えてこない。敢えて言えば、Charles Shigleton, Jr. なのか。でもあまり神秘性は感じられない人物だ。

今回は、冒頭に Lucy Champion とAlex という黒人のカップルが登場する。この話の中心人物ではないが、冒頭にでてくることで、今まで白人ばかり登場してきたシリーズの中では、ちょっと異色で興味を引いた。

彼の探偵小説の特徴は以下のようになる。これは The Ivory Grin だけに限らず、全作品に通じる特徴である。


(1)Archer は私立探偵なので、公権力の後ろ盾がない。後ろ盾がないながらも活躍する点で読者から喝采を受けるのだろう。

(2)警察はいつも頑固者で全体が見えない愚か者として描かれている。アメリカ人の公権力への反感が垣間見られる。

(3)女性の描き方が多彩だ。小説家によっては、女性は若くて美しい人ばかり登場させるが、Ross Macdonald は中年、老年、美人、普通、地味顏と多彩な登場人物だ。それゆえに、読んでいてリアリティーが生まれる。

(4)登場人物たちはやたらとタバコを吸う。そして、飲酒運転をする。今から60年前は、このあたりおおらかだったのだなと感じさせる。

(5)作者の心理学に関する知識が十分に活用されている。よく精神科医が出てくる。かれらの心の動きを上手に描写している。

(6)カリフオルニアの風景が描かれている。その描写も魅力のうちだ。

(7)社会階級の違いが描かれている。黒人、ヒスパニックと対立する白人の金持ちたち。当時の(恐らく今でもそうだろう)アメリカ社会に存在する格差を描いている。


こんなところか。タイトルの The Ivory Grin はどうな意味かさっぱり分からない。主人公がドアを開けようとして、The second pass-key I tried opened the door. My light flashed on the ivory grin of death. (p.74) とあるが、この部分にthe ivory grin of death とある。この箇所とタイトルが呼応するわけだが、特に必然性はない。まあ、この物語における skeleton の持つ重要な意味を暗示しているのだが。

また、この本は主人公が人を射殺する場面がある。他の彼の小説ではなかったが、この点はユニークである。