Ross Macdonald が描く女性はリアリスティックな場合が多い。多くの作家(主に男性作家)の描く女性は、若くて美しい女性ばかりである。テレビのドラマではそれがもっと露骨になる。登場する女性はすべて美人ばかりである。男性諸君からすれば、それは楽しいが、現実味がなくなる点が問題だ。

Ross Macdonald では、その点がかなり違う。登場人物は中年や初老の女性もたくさん登場する。美しい人もいれば、地味な人もいる。むしろ地味で平凡な容貌の女性の方が多い。

それらの人々の共通点はそれぞれが過去や現在に問題を抱えていることである。両親との葛藤、配偶者との不和、子どもへの思い、などなど、人間が普遍的にかかえる問題点をアメリカ西部の白人社会という場所を借りて表現している。探偵小説というよりも、人間の暗部を暴き出す心理小説として読んでいっても面白い。

いま、The Ivory Grin を読み始めている。Archer の事務所に女性が訪ねてくる。She was a stocky woman… (p.1) とあって、通常ならば、ほっそりとした可憐な感じの若い女性が訪ねるところから、小説は始まるのだ。典型的には、村上春樹の冒頭だ。でも、The Ivory Grin では、そうではない。なぜか主人公をイライラさせる中年の女なのだ。そんなオープニング・シーンも新鮮で面白い。