2014-06-27
第44編の死神の名付け親(Der Gevatter Tod)を読んだ。これは自分は気に入った物語である。死神に名付け親になってもらった子供が医者となる。病人の見極め方を死神から教えてもらう。死神が病人の頭のそばに立っていたら回復可能であり、足のそばに立っていたら直らない。しかし、医者は王様や王女が病気になったときに、病人の位置を一回転させて、死神が病人の頭のそばに来るようにする。つまり死神を欺いて、病人を直してしまう。それで死神が怒り、医者をかわりに連れて行くという話である。せっかく有名な医者になったのに惜しいことである。
グリムの物語の中ではあまり知られた話ではないが、なかなか面白い話だと自分は評価したい。ただ、結末はやはり何か工夫が必要だろう。例えば、死神を再度欺いてめでたく王女と結婚となりました、ならばすっきりするのだが。
この話を初版本で書かれた物語とも比較してみた。初版本では物語がかなり簡単である。逆に言えば、最終版ではいくつか加筆がある。とくに最後の洞窟での、人の寿命を示すろうそくの箇所が加筆してある。(余談だが、ここで Ray Bradburyの「大鎌」の話を思い出した。)
語句も異なるようだ。初版では医者は Doctorだが、最終版では Arzt である。同様に、名付け親は、Pathenから Pateへ、薬の機能をするものが Flasche 「瓶」からKraut「薬草」へ、首根っこが Halsから Kragen となっている。治療を意味する Cur や curiren は最終版ではもう出てこない。そしてこれは重要だが、王女は Prinzessin からKönigstochter と言い換えられている。王女の病気を直したら、初版では単に「報酬」を得るだけだが、最終版では「王女と結婚して王国を継ぐ」ことになっている。最後の洞穴のできごとが最終版では加筆されている。
王女や医者などはラテン系の語彙からゲルマン系の語彙に変わっている。これはナショナリズムの高揚とも関係するだろう。この頃はドイツ語から外来語の要素の排除が行われたのであろう。