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古い映画だが、黒澤明監督の映画『白痴』のDVDを見る。自分は、古い映画、白黒映画を見ると何故か懐かしいという気持ちが起こり、結構、その世界に入り込むことができる。
この『白痴」はドストエフスキーの『白痴』を元に場面を日本に置き換えて製作された映画である。1951年の映画とのこと、当時の日本の札幌の風景がなんとなく懐かしい。交通手段として馬が主に使われている。人々の生活もその頃は素朴であったことが偲ばれる。
主人公は亀田という男で、戦争での経験がトラウマになり、白痴のようになったのである。白痴のようであるが、心は美しく、その彼の純真さに二人の女性が引かれてゆく。一人は、那須妙子(原節子)であり、金持ちの囲いもの(妾)であったが、60万円である男性に売られることになる。もう一人は、大野綾子(久我美子)という金持ちの令嬢である。
映画では、この二人の女性が亀田という純粋な気持ちを持つ男性に惹かれてゆくプロセスが不自然である。十分にこの過程が描かれていない。突然、二人の女性が彼を好きになってしまう、というふうに観客は感じてしまう。公開された映画ではこのプロセスが少々はしょられている。
この映画は本来は4時間半であったが、あまりにも長い映画であったために、2時間46分にカットされたのである。正直言って、この切り詰められた映画では、重要な場面が省略されているような気がして物足りない感じがする。まあ、想像力で補うしかないのであるが。
この映画の圧巻は、二人の女性、原節子と久我美子の対決の場面である。共に亀田の愛を求めて女同士が言い合って、最後に原節子が亀田に手を出して自分を選ぶかどうか迫る。この時の二人の女性の顔のアップが迫力がありすぎる。往年の名女優の演技であり、鬼気迫ると言えるだろう。
この映画は公開当初はあまり高い評判を得なかったそうだ。でも、外国では高い評判を得ている。黒澤明監督が一つ一つの場面をそれぞれが絵になるように撮影している。登場人物たちが全員が映るように、それゆえに、まるで演劇の場面を見ているように感じる時もある。
なお、この映画の舞台となったのは、札幌にある有島武郎の家だそうだ。有島の家は立派で羨ましい。彼は後年雑誌『婦人公論』の女性記者である波多野秋子と不倫関係に陥り情死を遂げたそうだ。現代では、情死を遂げるほどの例は少ないが、当時は世間の圧力も強くて、情死を選ばざるを得ないこともあったのだろう。そんな情報もネットで関連情報を漁っているうちに知った。