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『大菩薩峠』を読了する。かなり長大な小説であったが、なんとか読み終えた。読後感としては、とにかく面白かった。よかったという感想だ。

作者の中里介山の膨大な知識を知ることができてよかった。特に自分のよく知らない書画とか、剣術、刀剣、音楽(囃子、笛、尺八、お神楽)、仏教思想などについての説明が面白かった。地方の民話や風俗などの説明を面白い。また、幕末の歴史的な流れ、その当時の人々の緊張感がよく伝わり、勉強になった。

この登場人物たちの舞台である、高山、白山、飛騨、福井、京都、草津、山科、伏見、伊吹山などは自分もよく知っている場所であり、親密感を覚えた。

ただ、自分はどうも主人公の机龍之介には感情移入できなかった。なんだか、よく分からない人物だ。ニヒリズムなのか、虚無主義というが、どうも分からない。単に人を切りたいという気持ちがあるだけの人物か、でも物語の後半では静かな聞き分けのいい浪人になってしまった。

未完の小説の最後の巻、椰子林の巻では、駒井甚三郎とお松が結婚するし、机龍之介も尼にお世話になるし、と徐々に大団円に向けて話が収束してくるという感じだ。このように全てが丸く収まるといいのだが、とにかく突然話が終わっている。最後は中国人の料理人金椎(キンツイ)が祈る箇所で終わるのだ。他の人々の話は、最後はどうなるか、本当に知りたいと思う。一説によれば、彼は続編の原稿を持っていたが、空襲で原稿が焼けてしまったそうだ。

自分が一番面白かったのは、歌や歌詞の部分だ。茂太郎はよく即興で歌を歌うが、面白い。さらには、登場人物たちが、よく歌を唄うその歌詞が自分の耳によく聞こえてくる。作者の盲目の人への深い愛情とともに、音と歌詞への思い入れを知るたびに、中里介山を「耳の人」と形容したい。

自分はKindleで読んだが、新聞に掲載された原文を挿絵と一緒に読んでみたい。しかし、そんな時間的な余裕はあるかな。