The Ferguson Affair (Ross Macdonald, Vintage Crime, 1988) を読み終えた。Ross Macdonald は多くの場合、私立探偵である Archer が主人公だが、この本では、弁護士である William Gunnarson が主人公である。Archer と異なり、妊娠中の妻 Sally がいる。そして、相変わらずめまぐるしい舞台展開で、ハードボイルド小説の典型とも言うべき内容である。

探偵小説の定番通りに、ある人物を犯人ではないか、と読者に疑わせる。そして、その疑惑が深まるように次から次と話しを提示してくる。そして、読者の確信が深まったときに、急にうっちゃりをかますのだ。今回も見事だなと思うのだ。

闘牛士が赤いマントをひらひらさせている。我々読者は闘牛みたいなもので、赤いマントに向かって突っ込んでいる。赤いマントは読者を意識的に迷わすための仕掛けであり、他の人が犯人だと思わせるようなエピソードの導入部である。

個人的には救急車の二人の運転手の正体があらわになる部分が面白かった。田舎の不器用なおっさん風であるが、負傷している主人公を見下ろしている。Whitey and Ronny seemed to hover over me like a pair of mad scientists exchanging sinister smiles. (p.229) の部分を読むと、こいつらも一味だったのか、と分かる文章である。この文章には、自分ははっとした。そうなのか、と手を叩いた次第だ。

Ross Macdonald の人間の描写は細かい。荒々しい粗忽な男の中に見える優しさ、献身さ、逆に非の打ち所のない人物の中に見えるずるさ、計算高さなどが見える。家族の中の愛と憎しみ、助け合いとライバル意識、過去が現代に及ぼす影響、上手に描写してある。人間心理をくまなく語り尽くしているのは見事だと思う。

この物語は、 p.259 のGunnarson がFerguson に一つのショッキングな事実を告げるところで終わっていればよかった、と思う。そのあと、いくつか小細工をしすぎて探偵小説としての完成度が落ちてしまったように感じる。あんまり込み入らせない方がよい。p.259 で終わりにしておけばよかったと思う。