2015-02-03

主人公は貧しかった頃に歩いていると、ふとショパンの夜想曲が聞こえてきて至福の時を味わった経験を述べている。この文章はとても素敵だ。
I checked my step, hoping, and in a minute or two the musician began to play that nocturne of Chopin which I love best—I don’t know how to name it. My heart leapt. There I stood in the thickening dusk, the glorious sounds floating about me; and I trembled with very ecstasy of enjoyment. (no.1217)

主人公はシェークスピアを高く評価している。『テンペスト』が一番好きだと述べている。それはシェークスピアの最後の作品であり、たくさんの哲学的な叡智が見られると述べている。

To-day I have read The Tempest. It is perhaps the play that I love best, (no. 1234)

The Tempest contains the noblest meditative passage in all the plays; that which embodies Shakespeare’s final view of life, and is the inevitable quotation of all who would sum the teachings of philosophy. (no. 1247)

このような文章を読むと『テンペスト』を読んでみたくなる。実は、自分はシェークスピアはあまり好きではなかった。でもこの歳になったので、若い頃には分からなかった魅力を見つけることができるかもしれない。

学生時代に『リア王』の演習を取ったことがあった。この戯曲自体には迫力があることは分かるが、英語自体は難しすぎると感じた。王と道化師が荒れ野で叫ぶセリフに感動していたクラスメートがいたが、自分の英語力では古風すぎる英語は理解できなかったので、きょとんとするだけだった。

主人公は、英国に生まれた最大の喜びはシェークスピアが母語で読めることだとまで述べている。
Among the many reasons which make me glad to have been born in England, one of the first is that I read Shakespeare in my mother tongue. (no. 1254)

この手記は四季の区切りがある。はじめは、springの章で、次はsummerの章である。そして、autumnの章となり、最後はwinterの章で終わる。最後はwinter というのは寂しすぎる気もする。私ならば、summer で初めて、最後はspringで終わる、つまり再生を暗示させる四季の並べ方もいいのではと思うが。

各章とも自然への愛と本を読む楽しみを語っている。「自然」と「書籍」がこの本のキーワードになるであろう。この本を読んでいると『徒然草』を思い起こすことが多い。 両者の微妙な差異も面白い。兼好法師は世間で起こっていることにかなり関心があり、見聞きしたことなどを書き付けている。しかし、ライクロフト氏は世間には一切興味を示さず、もっぱら、自然と書籍、時々音楽や絵画のことを述べるだけである。

この本は老齢の楽しみ方・生き方が書いてあり、自分には参考になることが多くて、すぐれた実用書でもある。なるほど、こんな風にして老境を過ごすのだなと勉強になる。

語法的なことを少々、I know not which would be the stronger emotion (no.1314)とあり、同じページに Turner’s landscape does not show them in the familiar light. とある。not の位置だが know が助動詞のように機能して know not となっている。しかし、show ではdoes not show となっている。動詞の否定形を示すのに2種類ある。(私が中学時代は I have not a pen. とおそわり、東京の中学に転校したら、I don’t have a pen. と教えられたので、当惑したことがあった、そんな昔のことを思い出した)。英語の世界では、全般に、助動詞から動詞への機能の移行が進んでいるのであろう。将来は、I don’t will to go to school. とか She does not can to speak English. のような文が一般的になるのだろう。

主人公は風邪を引いていて 3週間ほどの病気を意味するとある(no. 1320)。私は風邪を引くと1週間ほど調子が悪い。自分は主人公よりは体力があるのかな、と変な点に関心が行く。