2015-01-25
グリム童話集の第193話である Der Trommler を読んでいる。太鼓叩き Trommler が主人公となるのは珍しい。湖(an einen Seeとあり男性名詞なので「海」ではなくて「湖」である) で布を拾う。それがきっかけで王女を助けるためにガラスの城へ目指して進む。そして、Der Weg geht durch den großen Wald, in dem Menschenfresser hausen. (no. 10421) との文章がある。当時のドイツは森に囲まれていたこと、そしてそこには怪物が棲んでいると信じられていたこと、が窺える。村の周りを囲んでいた異界としての森である。人は何か成長するためには、その異界を乗り越えていかねばならない。
そして、森で巨人に出会う。その巨人を騙してガラスの城のある麓まで連れて行ってもらう。グリムに出てくる巨人は大抵は頭が悪くて主人公に容易に騙される。それに対して、小人たちは知恵を持っていて魔法が使える。この巨人と小人の対比は面白い。(大男、総身に知恵がまわりかね、という諺があるが、これは世界中でも共通に認識されているのか)
魔女に出会って、課題を与えられる。池の水を汲み上げること、森の木を全部切ること、それらをすべて燃やすこと、である。すべて乙女が現れて助けてくれる。(このパターンはグリムに続出するパターンである)最後に魔女はいなくなり、王女と太鼓叩きは結ばれることになるが、太鼓叩きは故郷に戻って親にこの話をしたいという。
故郷に戻ると親はしばらくは分からない。異界では3日しか経っていないのに、故郷では3年も経っていて太鼓叩きの顔も変わっていてしばらく息子だと気づかなかったのである。(異界では時間の経過の速度が異なるという点は浦島太郎の話に似ている)
太鼓叩きは王女のことを忘れて他の女と結婚することになる。結婚式の祝いのところに王女は美しい衣服(太陽の光線で縫ったような衣服)を着て現れる。花嫁はそれを欲しくなり、王女が一晩太鼓叩きの寝室の前に立つことを許可するという条件で衣服をもらうことになった。しかし、花嫁は太鼓叩きのワインに眠り薬(Schlaftrunk)を入れておく。王女は寝室の外で以下のような歌を歌う。
Trommler, Trommler, hör mich an,
hast du mich denn ganz vergessen?
hast du auf dem Glasberg nicht bei mir gesessen?
habe ich vor der Hexe nicht bewahrt dein Leben?
hast du mir auf Treue nicht die Hand gegeben?
Trommler, Trommler, hör mich an. (no. 10525)
(ここで私の訳を提示してみる、何とか脚韻を生かして)
太鼓打ちさん、太鼓打ちさん、聞いてちょうだい、
私のことは忘れちゃったの、すべて?
私と一緒に座っていませんでしたか、山ですべってすべって?
魔女から守ってあげませんでしたか、私はあなたの命を(いのちを)?
あなたは私に与えてくれましたね、本当の気持ちを(きもちを)?
太鼓打ちさん、太鼓打ちさん、聞いてちょうだい。
そんなことで、3回目でようやく太鼓叩きは王女のことを思い出し、花嫁とは別れて、王女と盛大な結婚式を挙げるという話である。結婚式の当日にやってきて、男に自分を思い出させて結婚するというパターンはグリム童話集では数多く見られる。この話の全体は面白いが、現在の花嫁を追い出すという点が荒っぽい。この点で、この話はあまり子供達には読ませたくない話であろう。