2014-06-07
『影を売った男』を読んでいく。no.1521に分からない表現 Schuppen があるので辞書でしらべる。すると、これは「目から鱗が落ちた」との意味である事が分かった。召使いが接した男こそが探していた灰色の男だった、と分かったときに、und ihm fiel es wie Schuppen von den Augen と叫んでいる。
日本語にもなっているこの表現は、西洋に起源があるようだ。英語やフランス語では何と言うのか?ウイダム英和辞典でscale を引いても載ってないが、ジーニアス英和辞典では、The scales fall from O’s eyes. と例文があり、聖書からの引用とある。なるほど、これは聖書からの引用だったのか!プチロワイヤル仏和辞典でecaille を引くと les ecailles me tombaient des yeux とある。西洋社会で共通のこの表現の起源は何か。
ネットの「故事ことわざ辞典」で調べてみる。すると答えを見つけた。「『新約聖書』使途行伝・第9章にある「The scales fall from one’s eyes.」という言葉に基づく。キリスト教を迫害していたサウロの目が見えなくなったとき、イエス・キリストがキリスト教徒に語りかけ、サウロを助けるようにとキリスト教徒のアナニヤに指示した。アナニヤがサウロの上に手を置くと、サウロは目が見えるようになり、このときサウロは「目から鱗のようなものが落ちた」と言っている。」とある。なるほど、勉強になった。西洋人にとって、聖書は教養の一部であるが、日本人にはこのあたりは苦手な分野である。
Schatten がこの物語の最大のキーワードである。主人公は高名な画家に相談して影を描いてもらおうとする。しかし、太陽の下では出歩かない事が一番、というアドバイスをうける。また no.1633では、忠実な召し使いのBendelといくつかの会話がある。Keinen Schatten? とか、Weh’ mir, dass ichi geboren ward, ennem schattenlosen Herrn zu dienen. と叫んだりする。このあたりはかなり迫力がある。
悪魔に魂や心臓を売るという場面は、ファウストやHauff のDas Kalte Herz にも出てきた。これは西洋では好まれるテーマのようだ。日本では、村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』にも主人公が影と分離する場面がある。村上春樹のこの話では、悪魔との取引ではない。自分の知っている限りは、西洋文学でも日本文学でも、他にはこのようなテーマはないなあ。 もちろん、実際はたくさんあるのだろうが。