異文化の森へ

『国境の南、太陽の西』の書評

2014-08-14

前回は、『多崎つくる』の書評について投稿した。似た内容の『国境の南、太陽の西』についての書評も気になって調べてみた。自分はこの本は大好きで村上春樹の作品の中で一番高く評価するのだが、他の人々はどうだろうか。例によって、アマゾンの書評を利用する。

8月14日の9時の時点で、日本では130人が書評しており、平均は4.2点(=星印が4.2)である。5名が星一つの評価である。その理由は、つまらない、気分が悪くなった、などのコメントであった。高く評価した人(星5つ)は、とても切ない、おしゃれだ、文章がきれいだ、胸が熱くなる、などのコメントが目立った。

アメリカのアマゾンでは162人が書評してあり、平均は4.2点であった。これは日本と同じ点数である。4点をつけた人のコメントを紹介すると、Unconditionally love doesn’t exist, even when you know who you’re true love is. Questions always remain and people have to accept this fact. つまり世界を教えてくれた本であると述べている。星5つと評価したある人は、Reading this book I felt like Hajime was at times my Japanese twin, living an unaccountably successful and comfortable life haunted by obsessions more animated than reality itself. としてある。つまり、自分自身が語られているように感じたとのコメントである。一般にアメリカ人のコメントは長くて主張が明確で、読んでいて私自身の読みの浅さを教えてくれることが多い。

イギリスのアマゾンでは、71名が書評していて、平均点は 4.2であった。アメリカ人のコメントと比べると文は短い。初めて読んだという人も多くて、若い人のコメントが多いと感じた。

フランスのアマゾンでは、17名が書評してあり、平均点は4.4であった。1Q84を読んで、そこからこの本に関心を持った人が多かった。Le style de Murakami est sobre et fluide. とあるように訳もかなり質の高い訳文のようだ。私自身も仏訳を読んだことがあるが、すばらしかったと感じた。

ドイツのアマゾンでは、現在二つの独訳がある。新しい訳は、Ursula Gräfe (21. Mai 2013)が日本語から訳したものである。34名の書評があり、4.5と高い評価となっている。Ich habe Gefährliche Geliebte vor Jahren gelesen und fand es super.とあるように、両方の訳とも素晴らしいとする人も多い。Hajime と Shimamoto の次の会話に心引かれた評者もいるようだ。

“Ich komme zu dir, oder ich komme nicht. Wenn ich komme, bin ich hier. Wenn ich nicht komme, bin ich woanders.”
“Gibt es da keinen Mittelweg?”
“Nein”, sagte sie.
“Denn dort existieren keine mittleren Dinge. Und wo nichts Mittleres existiert, gibt es auch keinen Mittelweg”, sage ich.
“Genau.”

旧訳はGiovanni Bandini und Ditte Bandini von DuMont (Juli 2002)たちによる英訳からの重訳である。タイトルは Gefährliche Geliebte (危険な愛人)となっている。「国境の南、太陽の西」のような曖昧で間接的なタイトルは好まなかったようだ。152の書評があって、4.3点である。Unglaublich – eins der besten Bücher der heutigen Zeit.と手放しで誉めたたえる評者もいれば、Giovanni Bandini übersetzt so weit ich informiert bin nicht aus dem Japanischen, sondern aus dem Englischen (wie auch schon bei Mister Aufziehvogel). Dass dabei jede Menge Informationen/Nuancen verloren gehen, scheint klar. と細かいニュアンスが消えたと苦情を言う人も出てくる。私自身もこの両者の訳本を持っていて、見比べてみたこともあるが、私のドイツ語の力ではどちらが上質かは判断できない。

中国のアマゾンも見てみる。9名からの書評があり、4.6点である。

なお、世界共通であるが、妻の立場からは主人公を怒鳴りつけたいとかフライパンで頭を叩きたい、などのコメントがあった。女性の立場からはかなりイラつく本であるようだ。

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