2015-04-20
The Moon and Sixpence 若い頃、W. Somerset Maughamのいくつかの本を読みふけったことがあった。特に気に入ったのは、The Moon and Sixpenceであった。またOf Human BondageやThe Razor’s Edgeなども楽しめて読めた。私の記憶では、Maughamとは面白い小説を書く人であり、どちらかというと行動するタイプではなくて、対象とするものから離れた距離から観察する人という印象であった。今から40年ほど前の印象である。
昨年、iPodを購入した。パソコン上でiTunesというソフトを開くと自分の好みの音楽を購入することができる。さらに、音楽だけでなくて、文学作品の朗読も購入できるのである。リストを見ていたら、The Moon and Sixpenceも購入できるようであり、さっそく2200円を支払って、ダウンロードをした。朗読の時間は全部で8時間10分ほどもあるので、全部を一挙に聞くのはたいへんなので、通勤の時間帯を利用して少しずつ聞くことにした。1週間ほどで全部を聞き終わることができた。
20歳の頃読んだ本を、60歳になってからオーディオブックで聴くと、いくつかの異なった印象を受ける。一番強い印象を受けたのは、登場人物たちだが、はたしてこんな人物がいるのか、と疑問に思った点であった。若い頃読んだときは、「世の中にはこんな人物がいるのだ、自分は一つ利口になった」と感心したのだが、この年になると、登場人物たちの非現実性がもの足りなく感じてしまう。
主人公であるCharles Stricklandは芸術主義で絵を描くという目的のために、家族を捨ててパリに移住する。そこで、Dirk Stroeveという絵描きとしての才能はあまりないが、彼に親切な画家や、彼の妻であるBlanche Stroeveという人物たちと知り合う。これらの人物が極端に描写されている。私はどうもあり得ない人物である、と思わずつぶやいてしまう。 さらに、妻のBlancheは突然、Stricklandに恋をして、夫を捨ててしまう。こんなこともあり得ない。若いときのMaughamが人生の未経験から無理やり人間を創りあげたという印象を受けてしまう。
さらに、戸惑ったのは、タヒチにStricklandが渡り、そこで現地人の妻Ataと一緒になると言う話しも、西洋人から見た幻想を投影している。現地の人はそんなに単純ではないだろう。高貴な野蛮人(noble savage)という幻想からやはり逃れていないとの印象を受ける。